バイオハイブリッドロボット
生体の動作機構をロボットと組み合わせることで、自己修復・増殖や化学エネルギーで動くバイオハイブリッドロボットの構築を目指しています。本研究室では、我々の運動を担っている筋肉から筋肉の駆動要素である生体分子モータまで、様々なバイオマテリアルを駆使してバイオハイブリッドロボットの実現を目指しています。
拮抗筋付き骨格筋駆動型バイオハイブリッドロボット
姿勢制御や運動などの身体活動を支えている骨格筋は、体重の約25-35%を占め、人体の各所に存在する臓器である。骨格筋は筋線維の集合体になっており、筋線維が刺激に応じて縮むことによって運動が実現されている。この骨格筋組織を体外で構築するには、人体にて骨格筋の両端部が腱を介して関節に固定されているように、両端部を固定した状態で筋芽細胞を培養する必要がある。本研究室では、剣山上に柱が立っている部材を用いて両端部を固定した状態で培養することで、筋芽細胞が融合され筋線維となり、骨格筋組織の構築を達成した。この体外で構築された骨格筋組織に電気刺激を負荷すると、各筋線維が収縮し、骨格筋組織全体の収縮運動が可能となる。
これまでにも単一の骨格筋組織をデバイスに組み込むことで、筋収縮で動くバイオハイブリッドロボットが提案されてきた。しかし、この骨格筋組織は時間経過と共に徐々に自身の張力によって縮まってしまうため、最終的には硬直してしまい、短時間で収縮ができなくなってしまうという問題があった。生体では上腕二頭筋と上腕三頭筋のように骨格筋は拮抗筋構造をとっており、常に一方の骨格筋がもう一方から引っ張られるため、上記のような問題は起こらず、大きな駆動を長期間発揮することができるようになっている。そこで、同等の収縮能を持つ2つの骨格筋組織を向かい合わせるように人工骨格上に配置することで、拮抗筋構造を有するバイオハイブリッドロボットを考案した。上記の方法で構築した拮抗筋構造を有するバイオハイブリッドロボットでは関節を介して骨格筋組織の張力が釣り合っており、単一骨格筋組織を用いたバイオハイブリッドロボットで起こる硬直が発生しないようになっている。加えて、各々の骨格筋組織に対して電気刺激を選択的に負荷し、骨格筋組織を伸縮運動することで、関節を両方向に回転させることで大きく駆動することができる。この時の骨格筋組織の収縮率は約20%、関節の回転角度は約90度であり、人体の骨格筋の収縮率(20-40%)や指の関節角度(85-100度)とほぼ同等の駆動を実現できている。さらに、電気刺激の制御により各々の骨格筋組織の収縮運動を制御することによって、関節の回転によってリングを引っ掛けて持ち上げる、骨格筋組織の収縮させたままにすることでリングを輸送する、もう一方の骨格筋組織を収縮させることによって所定の位置でリングを配置する、といった一連の動作を行うことに成功した。このように拮抗筋構造を設けることで、生体を模した駆動が可能なバイオハイブリッドロボットを実現できることを明らかにした。
Y. Morimoto, et al.: Science Robotics, eaat4440, 2018
空気中で動作可能な骨格筋駆動型バイオハイブリッドロボット
本研究では、中空部分を有したコラーゲン構造中に骨格筋組織が配置された空気中で駆動可能なバイオハイブリッドロボットを実現した。従来から筋組織を用いたバイオハイブリッドロボットでは、培養皿上の歩行やクラゲのような泳ぎが実現されている。しかし、こららのバイオハイブリッドロボットは培養液中でのみ駆動可能であり、空気中で駆動することはできなかった。空気中での駆動が可能になると、ロボットとしての応用先が広がると期待される。
本研究のバイオハイブリッドロボットでは、骨格筋組織の両端は固定部材に接続しており、この固定部材には金電極がしており電気刺激を負荷することができるようになっている。固定部材は柔軟基板上に接着しており、骨格筋組織が収縮すると基板が屈曲するようになっている。この時、コラーゲン構造中に骨格筋組織があるため、空気中であっても骨格筋組織は湿潤環境を維持し電気刺激により収縮することが可能となる。さらに、このバイオハイブリッドロボットの空気中での利用可能性の実証するため、骨格筋組織を電気刺激で収縮させることでビーズを押すことができることを示した。このように、提案の空気中で駆動可能なバイオハイブリッドロボットは、これまでの液中での駆動というバイオハイブリッドロボットの限界を超えることができることを明らかにしている。
Y. Morimoto, et al.: APL Bioengineering, 026101, 2020
神経刺激で駆動する骨格筋組織
本研究では、培養して形成した骨格筋組織上に神経幹細胞スフェロイドを接着させることで、神経-骨格筋共培養組織を実現した。筋肉の随意運動は、大脳皮質からの信号が筋肉に到達することで発生する。この信号伝達では、運動神経の軸索が筋肉上に接着することで形成した神経筋接合部を介して、神経刺激が筋肉に伝達されている。体外における神経と筋細胞の共培養による神経筋接合部を形成は、薬理研究や組織工学、バイオロボティクスなどの分野で試みられている。しかし、従来の共培養はシャーレ上で行われていたため筋細胞もシャーレに接着しており、生体の筋肉の様に両端部のみが固定された状態で自由に収縮運動することができる構成になっていなかった。
そこで、両端部のみが固定された骨格筋組織上に神経幹細胞スフェロイド(塊)を接着させ、筋組織上で神経幹細胞から運動神経へと分化させることで、運動神経と骨格筋組織の共培養組織を構築することに成功した。この共培養組織では神経筋接合部が形成されており、グルタミン酸(神経伝達物質)を添加した際に運動神経を活性化させることで収縮運動を発生でき、クラーレ(神経筋接合部阻害剤)を添加すると痙攣し収縮運動しなくなる様子が確認された。このことから、本研究の方法で神経-骨格共培養式が構築され、神経からの信号が筋組織に伝達されることで収縮運動可能であることが明らかになった。
Y. Morimoto, et al.: Biomaterials, pp. 9413-9419, 2013
生体分子モーターを用いたバイオハイブリッド輸送システム
私たちは、ATPによって動く生体分子モーターを用いたマイクロ・ナノ輸送システムを実現しました。システムの駆動源は、直線状に移動する分子モーターの一種である微小管とキネシンです。 キネシンは微小管のレール上でATPを加水分解することで移動します。駆動に使う燃料は生体内にあるATPだけなので、外部からの電圧印加やエネルギー供給を必要としません。このため、分子モーターはバイオアクチュエータとして幅広い応用が期待されています。この研究では、バイオマテリアルとMicro Electro Mechanical Systems (MEMS)を結び付ける基礎的な成果を上げることができました。まず輸送のレールとなる微小管を、PDMSを用いて基盤上にパターンしました。そこにキネシンをコーティングしたマイクロビーズ(直径 320 nm)やマイクロ構造物を乗せ、ATPを加えることで微小管に沿って荷物を運ぶことに成功しました。その平均移動速度は、それぞれ476 nm/sと 308 nm/sというものでした。ATP導入によって輸送システムを活性化できることが分かったので、次にhexokinaseを阻害剤として使用し繰り返しon/off制御を行うことにも成功しました。