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体内埋め込み型デバイス

たとえば、糖尿病は、放っておけば、脳梗塞や心筋梗塞、失明など重大な疾患を併発するおそれがあるため、血糖値の厳正な管理は必要不可欠です。現在、多くの糖尿病患者は一日数回、指などに針を刺し、血糖値を計測していますが、血糖値は、食事や運動などによって、時々刻々と変動するため、一日数回の計測では、細かい変化をとらえることは困難です。これに対して、センサーを体内に埋め込むことができれば、無意識のうちに連続して情報を読み取ることができます。体内に完全に埋め込んでしまうため、定期的な採血の必要がなく、患者のQOL(Quality of Life)が飛躍的に向上することも期待されている。健康管理を24時間連続しておこなることができる埋め込み型のセンサを研究しています。

ハイドロゲルを用いた高精度な連続グルコース計測装置(CGM)

グルコース濃度に応じて光の強度を変えるハイドロゲルを用いたCGMの開発に成功した。市販のCGMに比べ高い測定精度を有し、90日間の長期連続測定に成功した。
糖尿病において合併症の予防は、正常血糖領域への血糖値制御につきる。そのためには、高精度なCGMが必須である。しかし、市販されているCGMでは、精度が低くCGMの測定値を参考にして、インスリン投与量を決定することができない。これは、酵素反応を用いてグルコース計測をしているためであり、酵素の失活や化合物の消費の影響とされている。ハイドロゲルを用いる計測法は、繰り返し可能な反応を用いているため、高い精度を長期間に渡って維持し続けることができる。その特性を最大限に活かすため、生体適合性を向上させ、生体内で高い耐久性を有するハイドロゲルを開発した。さらに、生体内のグルコース濃度を測定し、結果をPCに無線転送する専用の埋込型デバイスも開発した。糖尿病モデルラットに開発したCGMを装着して連続グルコース計測したところ、市販のCGMを凌駕する高い精度で長期間に渡って測定することに成功している。現在は、CGMの血糖値よりインスリン投与量が決定し、インスリンポンプと連動させることで自動で24時間血糖値制御が可能な人工膵臓の実現を目指している。
この研究により、多くの糖尿病患者の厳格な血糖値管理が可能となり、QOLの増加と健康寿命の促進が期待できる。

膵β細胞ファイバーの移植による糖尿病時の血糖値改善

免疫細胞隔離能を持つハイドロゲル内に膵β細胞をカプセル化したファイバー状移植片を作製し、100日以上の長期移植においてマウスの血糖値を制御することに成功した。
膵島移植は重症インスリン依存性糖尿病に対する画期的な治療法ではあるが、これを移植療法として実用化するためには、移植細胞に対するホストからの反応を抑制することと、移植片の安全性を担保することが必要である。このような場合は、半透膜のバッグまたはハイドロゲルビーズに細胞をカプセル化して移植することが望ましい。しかし、これらの方法では移植片のスケールアップや移植細胞に問題が生じた際の回収に課題があった。ここで開発したファイバー状移植片はスケールアップ可能な単一移植片であり、糖尿病モデルマウスへの移植実験において、血糖値制御や移植片の回収・交換が可能であることを実証した。現在は、細胞ソースとしてヒトiPS細胞由来膵β細胞を用いることで、ドナーに依存しない新規の移植療法の実現を目指している。
この研究により、多くの糖尿病患者・糖尿病予備軍を早期に社会復帰させることが可能となり、社会活動時間の増加と医療費の軽減による大きな経済的貢献が期待できる。

ハイドロゲルファイバーによる長期血糖値計測

血糖値に応じて光の強度を変えるハイドロゲルをファイバー状に加工し、マウスの耳に4ヶ月以上埋め込み血糖値を計測することに成功した。
このセンサは、これまでに我々が考案した、血糖値に応じて光の強度(蛍光強度)を変化させるハイドロゲルビーズをファイバー状に加工したもの。これまでのビーズの形状は、長期埋め込みを行うと、ビーズが移動してしまうという問題があった。また、計測後に、ビーズを体外に取り出すことも難しかった。そこで、微小径のファイバーに加工することで、長期間、埋め込んだ位置に安定して存在させることができた(写真参照)。また、ファイバーを引き抜くことで、容易に埋め込み部位から取り出すことにも成功した。さらに、このハイドロゲル内に生体適合性のポリマーを混入させることで、埋め込み時の皮膚周囲の炎症を低減させ、皮膚の外からの光計測を長期間行うことができた。実験では、埋め込み後4ヶ月半経っても、ファイバーの位置は変化せず、体内の血糖値に応じて変化する蛍光強度を体外から計測することに成功した。
糖尿病において合併症を防ぐためには、厳格な血糖値制御が必要である。連続計測のために、半埋め込み型のセンサが市販されているが、感染症などの理由から数日おきにセンサを取り替えなくてはならず、長期間の計測は難しかった。
ここで開発された微小径のファイバー型センサを利用すれば、患者の負担なく体内に低侵襲で埋め込むことが可能であり、睡眠中など、自らが計測することができない場合でも、血糖値が長期間センサを取り替えることなく、自動的に(無意識のうちに)血糖値を計測できるシステムの実現が期待できる。
Y.J. Heo, et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA , 2011

血糖値に応答する埋め込み用ハイドロゲルビーズ

血糖値に応じて光の強度を変化させるハイドロゲルを微細加工し、直径100ミクロン程度に揃ったビーズを作成することに成功した。さらに、これらのビーズをマウスの耳に埋め込み、写真(注)のように蛍光を観察することに成功した。また、周辺のブドウ糖の濃度に応じて変化するビーズの輝度を体外から計測することにも成功した。
糖尿病において合併症を防ぐためには、厳格な血糖値制御が必要である。現在、多くの糖尿病患者は一日数回、指などに針を刺し、血糖値を計測している。しかし血糖値は、食事や運動によって、大きく変動するため、一日数回の計測では、十分な経時的変化をとらえることは難しかった。このため、24時間連続して血糖値計測が行なえる方法が切望されている。
ここで開発された技術を利用すれば、患者の負担なく体内にビーズを埋め込むことが可能であり、皮下を通して連続して血糖値を計測できる可能性がある。睡眠中など、自らが計測することができない場合でも、自動的に(無意識のうちに)血糖値が計測できるシステムの実現が期待できる。
H. Shibata*, Y.J. Heo*, et al. (*equal contribution): Proc. Natl. Acad. Sci. USA , 2010